2024年10月6日~10月30日・11月2日~11月26日 シリーズ:自在に描く表現者たち 第4回
榧 維真(かや ゆいま)の妖怪百物語
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阪急箕面線牧落駅から10分近く、牧落八幡宮のちかくにある「ふくみみギャラリー」では、障害をもつ人たちが自由自在に描く絵画展を企画していて、10月と11月は「榧 維真(かや ゆいま)展」が開かれました。
2010年、絵画の教員だった2人のひとが、専門の学習をしなかった障害者の自由な表現の場として、「ミントアンサンブルアートサークル」を設立しました。
榧維真(かや ゆいま)さんはそのメンバーの一人で、水木しげるを「先生」と尊敬されていて、水木しげるがつくりだした数々の妖怪からインスパイアされた独自の妖怪をモチーフに独創的な発想と細密な画法、大胆な色使いで自由で冒険的な作品を描きつづけていて、心が揺さぶられます。
今回、2カ月にわたっておびただしい数の妖怪たちが絵画空間からどっと溢れ出て、ふくみみギャラリーがどこかなつかしい異空間となり、その迫力と底なし沼に吸い込まれるような怪しい魅力にとりつかれてしまいました。
彼が師と仰ぐ水木しげるは、貸本屋時代から雑誌「ガロ」まで、わたしの子どもから大人になるまで慣れ親しんだ漫画家で、大ヒットした「ゲゲゲの鬼太郎」に登場するねずみ男は、友だちの間で自他ともに認めるわたしのキャラクターでした。
妖怪に限らず「見えないもの」もたしかに存在し、時にはわたしたちの人生を励ましてくれる存在であることを強烈に教えてくれたのも、水木しげるの悲惨と言う言葉では語れない戦争体験があったからではないかとわたしは思います。「学校も試験も会社も仕事もない」と言い放つ妖怪の自由さは、引き算を繰り返し競い合う社会ではなく、子どもたちが平和で安心して育ち、多様な人々が助け合う社会を願う水木しげるの切ない願いそのものだったのでしょう。
水木しげるを心の師として、子どもの頃からただひたすら妖怪の世界を描き続ける榧維真さんもまた、その強い願いを引き継ぐ「平和を愛する画家」なのだと思いました。(細谷常彦)