
異色の立体制作アーティストによる30年の手紙はもうひとつのアール・ブリュット
3月10日、阪急箕面線牧落駅から10分近く、牧落八幡宮のちかくにある「ふくみみギャラリー」で開催されている「おどろきのカレンダーアート・嘉山伸子展」に行きました。
ふくみみギャラリーは猫の版画作品で人気の二口圭子さんが開いたギャラリーで、一か月ごとに今回のような企画展を計画しています。一般の画廊や展示場とは違ったアットホームな雰囲気が心地よく、わたしたち夫婦と共通の友だちと毎回ご飯時に弁当を持って行き、長い時間話したりするのが楽しみになっています。
いつもは障害をもつ人たちが自由自在に描いた絵画展が中心ですが、今回は池田で食堂を開きながらとてもユニークな立体作品を次々と制作する嘉山伸子さんの個展です。
嘉山伸子さんはここ近年、食堂の2階をそれらの作品がぎっしり詰まった異空間にするとても刺激的な個展を開いてきましたが、一方で1995年から30年に渡り、手作りのカレンダーを制作し、近い友人にプレゼントしてきました。その30年の軌跡がふくみみギャラリーに展示されていて、実は一回では展示しきれず、月をまたいで第二部の展示があるようです。
嘉山さんの立体作品はほんとうに不思議なものばかりです。紙、布など身の回りの素材でつくられた、一見異様に見えるオブジェがいつの間にかとても懐かしく感じるのです。誰もの心の淵からぽっとこぼれ落ちる何か、あふれてくる感情や欲望、諦めや希望の粒が無数に集まって形づくられたようなオブジェたちはずっと前から隣にいて、わたしの人生を伴走してきた友人のように思えてくるのです。
ユーモアとやさしさと諧謔にあふれた数々のオブジェと装飾が、食堂の2階の部屋の床から壁、天井にぎっしりとつまっていて、訪れる人は誰もが普通の展示会場のようにすっと通り過ぎることができず、いつの間にか床に座り込み、嘉山さんのつくりだす心地よい空間にやすらぎを覚えるのでした。その体験は一風変わった演劇空間のようで、しかもそれらのものたちはひとつひとつ違う物語を語っていて、静かな空間にその語りが、さわめきが一斉に鳴り響くのでした。
そんな素晴らしい作品に彼女自身は未練がなく、展示が終わるとほとんどすべて捨ててしまうので、あまりにももったいなくて、連れ合いがやっていたリサイクルショップの2階の部屋で再現させてもらったこともあります。
彼女にとってそれらの作品はすでに出来上がった時点で過去の物で、おそらく作品づくりの過程が彼女自身の日常のさまざまな感情、その中にはとても苦しいことや悲しいことや、ちょっとした喜びなどもあるかもしれないのですが、それらの感情を閉じ込めた彼女の心と身体からゆっくりとはぎとられる行動芸術、あるいは人生を何度も生きなおす治療行為なのかもしれません。
そんな嘉山さんが制作するカレンダーもまた、もちろん世界のどこにもないたった一つのパンドラの箱のようで、一般のタブローでなくカレンダーであることは、彼女の立体作品とちがった一定の約束事、ルールに制約されることでかえってもっとこだわることができる冒険なのだと思います。それも、特定の誰かへの一年分の手紙として…。
嘉山さんの立体作品が生きる事のあくなき冒険の役割を終えた亡骸であるのに対して、カレンダーは特定の誰かへの贈り物、同時代に生きるひとたちへの未来を共にする希望のメッセージが込められているように感じます。そして、嘉山さんが生み出すアート作品がとてもプライベートな未完の手紙で、その手紙を投函するポストがもっといくつもあったらいいのにと思いました。ほんとうに限られたひとたちしか見たり触ったりできなくて、とてももったいないと思います。
今回もすでに会期が終わってしまうことになってしまいました。体調があまり良くなかったことや別件の作業に追われて、報告が遅れてしまいました。
これからは「ふくみみギャラリー」から送られてくる案内を早くに紹介したいと思います。
ふくみみギャラリー
〒562-0004 大阪府箕面市牧落2-12-16
阪急箕面線牧落駅下車徒歩5分
土・日・月・火 回廊
常設展示は不定期です。メールで確認をお願いします。
hukumimi2023@gmail.com