華やかな色彩がこぼれ落ち、ポップな心がデザインする

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世界はもしかすると「見えないもの」がかくれているのではなく、見えるものがどこまでも細かく分解され修復不可能になった歴史の墓場なのかもしれません。窓に映る風景が割れた窓ガラスの破片になってしまったマグリットの絵のように…。

 若いころ、部分をいくら正確につなぎ合わせても世界の全体にもどらない、という観念に取りつかれていました。
大谷絵美さんの作品を見て、若かった時のその感覚を思い出していました。

 最初に驚くのはこぼれるような色彩の動物や楽器、物たちの破片がぎっしりと詰まっていて、その華やかな色彩を時には大きく時には微細に引かれた黒い線による自在な枠組みでした。大小さまざまな枠組みはそれ自体絵の中のさまざまな動物や物たちの輪郭をたどりながら、一方では枠組の中のおびただしい色彩を封じ込めていて、そのせめぎ合いが作品の世界をどきどきする大宇宙にしているのでした。
 私事ばかりで申し訳ないですが、わたしが16歳の時に「美術手帳」という雑誌で特集をしていたアメリカのポップアートの作品の数々を思い出しました。大谷絵美さんの絵は、自分自身の内面に降りていくのではなく、ポップな心がデザインされ、膨張するように感じたからでした。

 わたしの美術体験はもっぱら青春時代にむさぼるように美術手帳の特集で紹介されていた1920年代のシューレアリスムとダダイズム、1950、60年代のホップアートやネオダダイズムにとどまっていて、それ以後のものは全く知りません。
 けれども大谷絵美さんをはじめ「ミントアンサンブル」のアーテイストたちの作品に触れることで、アートの今をたくさん観る機会を得て、とてもしあわせに思います。
 精力的に彼女彼らの作品を紹介する「ふくみみギャラリー」ですが、次回は11月8日から12月2日まで、「ミントアンサンブル」の菊池沙耶香さんの作品展が開かれます。 (細谷常彦)