シリーズ:自在に描く表現者たち 立ち止まる勇気と切実な夢に満ち溢れた静かな世界

美しい絵を描く人達がいる
彼等の指先には神が宿っている
驚きに満ちたその線や色は
遠いところまで心を連れて行く
(金森幸介「美しい絵を描く人達がいる」)

 4月28日、阪急箕面線牧落駅から10分近く、牧落八幡宮のちかくの「ふくみみギャラリー」で開かれていた「谷口将郎(たにぐち のぶろう)展」に行きました。
 フェイスブックでは早くに紹介したものの、開催期間終了ギリギリに観に行くことになり、感想を書くのが今になってしまいました。
 何度もお伝えしていますが2010年、絵画の教員だった2人のひとが専門の学習をしなかった障害者の自由な表現の場として、「ミントアンサンブルアートサークル」を設立しました。
 サークル本体も年に一度、箕面市内の公的施設でグループ展を開催してきましたが、設立者の一人でわたしたち夫婦の友人でもある版画家の二口圭子さんが運営する「ふくみみギャラリー」でも、「ミントアンサンブルアートサークル」のメンバーの個展を開いてきました。今回は、サークルのメンバーの谷口将郎さんの個展が開かれたのでした。
 今まで紹介してきた熊谷友野さんには生きることへの圧倒的なオプティズム、榧維真さんには薄明るい夜へと誘う心のざわめきを感じましたが、谷口将郎さんの場合はまるで浮世絵のようで、匂い立つ演劇空間に吸い込まれるようでした。
 どの絵もシンプルで、ある意味とても古典的な絵画でありながらモチーフがある時はデフォルメされ、ある時は遠ざかっていくようで、画面に現れた風景の次の場面がかくれているような不思議な作品でした。
 とても寡作な人で、おおむね1、2枚を毎月のサークル活動で描き上げていくようですが、心の中ではたくさんの神話を描き続けているのかもしれません。
 アールブリュットとされる彼の作品もまた、たくさんの人に希望を届けるもので、これからまたどんな作品をみせてくれるのかとても楽しみです。
 とりわけ、この世界が理不尽に命を奪い、破壊と残虐な暴力が積み上げるがれきの山を乗り越えなければならないわたしたちにとって、今もっとも必要とされる立ち止まる勇気と切実な夢に満ち溢れる音楽が聴こえてくるようです。
 この場を用意してくれた「ふくみみギャラリー」に感謝します。(細谷常彦)